PPWR(EU包装・包装廃棄物規則)とブリスター包装。 ここでは、PPWRという規制を切り口に、2030年までに考えておきたい、これからのブリスター包装との向き合い方を、ブリスター包装機を設計している立場からまとめています。
「うちは輸出していないから関係ない」その前に

「うちはヨーロッパへ輸出していないから、PPWRは関係ない…」
PPWR(EUの包装・包装廃棄物規則)が直接対象とするのは、EU市場に投入される包装です。 なので、そんな風に考える会社さんは多いと思います。 実際、その通りな部分もあります。
国内で製造し、国内で流通し、国内で消費される商品であれば、「PPWRに対応しなければ販売できなくなる」ということではないです。 ここは、必要以上に煽るべきではないとボクは思っています。
ただ、規制の適用範囲の話と、包装が向かっている方向の話は、別なんですよね…。
PPWRは、もう始まっている
PPWR(Packaging and Packaging Waste Regulation/Regulation (EU) 2025/40)は、2025年2月11日に発効し、2026年8月12日から原則として適用が始まりました。 つまり、PPWRは「これから始まる規制」ではなく、すでに始まっているんですよね。
ただ、2026年8月12日にすべての包装を一斉に変更しなければならないわけではなく、規定によって適用時期が異なっていて、包装メーカーや商品メーカーにとって大きな節目になるのは2030年です。
PPWRの大きな柱の一つが、「市場に出される包装は、リサイクル可能でなければならない」という考え方です。 ただし、「リサイクルできます」とメーカーが自主的に判断すればよいわけではなく、2030年以降は、EUが定める Design for Recycling――リサイクルを前提とした設計基準に基づいて評価される方向になります。
包装のリサイクル性能はA・B・Cといった等級で評価される仕組みが予定されていて、2030年からはこのいずれかに入らなければ市場投入できなくなります。 2038年からは、AまたはBまで要求水準が引き上げられる見通しです。
具体的な評価基準は、欧州委員会が2028年1月1日までに定めることになっているので、2026年8月時点で、細かな採点基準まですべてが出揃っているわけではありません。 それでも、どちらへ向かっているのかは、かなりはっきりしています。
プラスチック包装については、再生プラスチックの使用にも具体的な要求が入ります。原則として2030年以降、包装カテゴリーによって最低再生材含有率が設定される予定で、一般的なプラスチック包装では35%、接触に敏感なPET包装では30%というように、用途によって求められる割合が変わってきます。
対象や例外、実際の適用時期には今後決まる実施法令が関わる部分もあるので、ここは早合点せず、動向を見ておく必要があります。
※本ページで紹介している数値や適用時期は、2026年8月時点で確認できる情報をもとにしています。 詳細な基準は今後の委任法令によって変わる可能性があるので、実際の対応にあたっては最新の公式情報や専門家にも確認しながら進めてください。 ここでは、機械設計の立場から「何ができるか」をお伝えしています。
「減らせばいい」だけでは終わらない
PPWRというと、「脱プラスチック」「紙化」「減プラ」と捉えられがちです。
もちろん、包装材料を減らすことは重要で、2030年1月1日からは、包装の重量と体積を、その包装機能を維持するために必要な最小限にすることも求められます。
ただし、PPWRを読むと、単純に「包装を小さく、薄くすればいい」と言っているわけではないことが分かります。 包装に必要な性能として、商品保護・製造工程への適合・安全性・開封防止・盗難防止・偽造防止・リサイクル性、といった項目が条件に含まれているんです。
特に興味深いのは、anti-theft――盗難防止まで、包装の正当な機能として明記されていることです。 ここは、日本の包装を考える上でも重要なところだと思っています。
日本の店頭では、スライドブリスターのように「開封しやすい」包装でも、普通に販売されています。 もちろん商品や店舗によって事情は違いますが、「客が売場で包装を開け、商品だけを持ち去る」ことを最優先に考えなくても販売できるケースが、比較的多いからこそ成立する包装とも言えます。(いわゆる、性善説でなりたつ包装形態です。)
一方、海外の小売包装では、防犯性能が重要な設計条件になります。 商品を簡単に抜き取れない。開封すれば痕跡が残る。溶着型のブリスターやクラムシェルが使われてきた理由には、こうした役割もあります。
実際、商品の海外展開に際して「スライドブリスターでは海外の店頭に置けない、溶着タイプのブリスターにしたい」という相談を受けたこともあります。 日本の常識は、海外ではそのまま通じないということなんですよね。 発想のベースが真逆であることが理解できます。
近年、日本でも化粧品や日用品を中心に、硬質のブリスター容器から、紙台紙と薄いシュリンクフィルムを組み合わせた「シュリンク台紙」への切り替えが進んでいます。 プラスチック使用量を大幅に減らせるという意味では、とても分かりやすい包装です。
ただ、構造上の弱点もあります。
シュリンクフィルムは紙台紙に接着されているだけなので、条件によっては台紙とフィルムを容易に剥離させることができてしまいます。 薄いフィルムなので、硬質のブリスターや溶着クラムシェルに比べれば、商品へのアクセスも容易です。
「だから海外ではシュリンク台紙が採用されない」と断定できる資料は、現時点で確認できていません。 あくまで構造と海外小売の防犯事情から考えた、ボクなりの仮説です。 ただ、減プラだけを評価すれば有利、防犯まで含めると話が変わる、ということは確かだと思っています。
化粧品などでは、すでにボトルやチューブといった「一次容器」に商品が入っていて、その外側にシュリンク台紙を付けて売る、二段階(二重包装)の構造になっているケースもあります。
二重包装だからPPWRで禁止されるわけではありませんが、問われるのは「その二重の包装は何のためにあるのか」を説明できるかどうかです。
商品保護・改ざん防止・盗難防止・情報表示・物流保護といった明確な機能があれば合理性がありますが、主な目的が売場での見栄えだけとなると、PPWRの包装最小化という考え方の中で、将来どこまで評価されるのか、考えておく必要があると思います。
実際、PPWRの2026年ガイダンスでも、「マーケティング」や「消費者受容」は、余分な包装重量・体積を正当化する理由から外されたことが説明されています。
分けやすさと、開けにくさ。一見矛盾する二つの要求
ここで、面白い問題が出てきます。
PPWRのリサイクルを考えるなら、紙とプラスチックは分けやすい方がいい。 しかし、盗難防止を考えるなら、店頭では簡単に分離できない方がいい。
つまり、「分けやすくしてください」と「簡単に開けられないようにしてください」を同時に求められることになるんです。これって、矛盾しているように見えますよね。
でも実際には、「購入前には開けにくく、購入後、正しい方法なら分けやすい」という包装設計ができればいいんです。
ブリスター包装に限らず、これからの包装には、この考え方が重要になるのではないかとボクは思っています。
環境への対策として、これまでは「プラスチックを何%減らしました」という説明が分かりやすかったと思います。 もちろん、それも大切です。 でも、PPWRを見ると、評価軸はその先へ進んでいます。
少ない材料で包装する。必要な機能は残す。使用後には材料ごとに分け、回収・選別できる。再び材料として使える…。
単なる包装だけではなく、「使い終わったあと、どうするのか」。 そこまで設計する必要がある方向へ変わりつつあるということです。
日本国内でも、同じ方向への変化が始まっている

PPWRはEUの規則なので、日本国内だけで販売する商品に、そのまま適用されるわけではありません。 ただ、規制の話と、包装が向かう方向まで違うかと言えば、そうでもないとボクは思っています。
日本でも、プラスチック資源循環促進法に基づいて「プラスチック使用製品設計指針」が示されています。
プラスチック使用量を減らす、包装を簡素化する、単一素材化する、分解・分別しやすくする、再生プラスチックを利用する…。 日本でも同じように、「使い終わった包装を、そのあとどう処理できるのか」まで考える方向へ変わっているんです。
2026年には、この考え方が制度として実際に動き始めました。
文具、清涼飲料用PETボトル、家庭用洗浄剤容器、家庭用化粧品容器について設計認定制度が始まり、2月には初めて41件が認定されています。 家庭用化粧品容器では、再生材の使用、無着色PET、単一素材化、分別しやすい設計などが評価の対象になっています。
PPWRと同じ制度ではありませんが、目指している方向には共通点があるんですよね。
ブリスター包装が抱える、紙とプラスチックの一体化問題
一般的なヒートシール(溶着型)ブリスターでは、透明なプラスチック容器と、ヒートシール剤を塗布した紙台紙を、熱で接着します。 包装としては合理的で、防犯機能もあります。
ただ、「使い終わった後」を考えると問題があります。 紙とプラスチックが強く接着されているため、消費者が簡単に分けられないのです。 プラスチック側に紙が残ってしまう。 この点は、かなり以前から指摘されてきました。
一方で、「分別しやすくするなら、最初から簡単に剥がれるようにすればいい」という話でもありません。
店頭で簡単に剥がれてしまえば、商品保持という包装本来の機能を失い、盗難防止性能にも影響します。 輸送時や店舗での陳列時に剥がれてしまうリスクを考えたとき、包装現場からみれば、「より強固な接着で剥がれないこと」を包装の条件とするのは当然のことです。
ところが資源循環を考えると、最後には「分けられること」も条件に加わえられるのです。 ポイントになるのは、輸送や販売している間はしっかり包装されていて、使用後には紙とプラスチックを簡単に分けられること。
この二つを両立させることです。
台紙二重化という、一つの選択肢
ボクらが現在提唱している方法の一つが、ブリスター包装の台紙を二重構造にすることです。
現在の溶着タイプのブリスターでは、ブリスター容器を、商品情報が印刷された台紙へ直接ヒートシールするため、分別の問題が生じます。
台紙を二重化すれば、ブリスター容器を直接台紙に貼り付ける必要がなくなり、包装として必要な接着強度は確保しながら、使用後には紙とプラスチックを分けやすくする構造をつくることができます。
さらに、この方式にはもう一つ意味があります。 ブリスター容器側の素材選択肢が広がるということです。
従来は、「台紙へ溶着しやすいプラスチック素材」という条件で材料を選んでいました。 A-PETやG-PETがその代表です。再生PETは溶着しづらく、作業性やのちのトラブルリスクを考えると、敬遠される材料でした。
台紙を二重化することで、再生材でも、バイオ系でも、従来より台紙との溶着には不向きと言われていた素材を事由に選ぶことができるようになります。
ここで、少し先の話もしておきたいと思います。
PPWRが将来的に求めていく方向は、突き詰めると「素材の完全分離」です。 紙とプラスチックが、混ざりものなく、それぞれ単一の資源として回収できる状態が理想とされています。
ただ、これはブリスター包装だけの課題ではありません。 紙をベースにした代替包装でも、同じ壁にぶつかります。
紙は単体では防水性に乏しいため、フィルムコートやラミネート加工を施すのが一般的です。 この時点で紙とプラスチックが複合化してしまい、リサイクル性能は担保できなくなります。 シュリンク台紙も例外ではなく、剥がした際にフィルム側へ紙素材が付着してしまうため、完全な分別にはならないんですよね。
つまり、「ブリスターをやめて紙系の包装にすれば解決する」という単純な話ではないんです。
どの包装形態を選んでも、完全分離という理想には、それぞれ固有の壁があります。 だからこそ、ブリスター包装というフォーマットの中で、分離性をどこまで高められるか、という視点で考える方が現実的だとボクは思っています。
一方で、この方法が「正解」であるかと言われると、そうではありません。 あくまで、方法の一つです。
現時点で「台紙二重化ならPPWRに適合します」とは断言できません。 PPWRのDesign for Recyclingに関する詳細な評価基準には、まだ今後定められる部分があるためです。
日本国内でも、商品や流通方法によって最適な包装は違います。 シュリンク台紙が適している商品もあれば、紙箱が適している商品もある。 スライドブリスターで十分な商品もありますし、そもそも外装包装をなくせる商品もあるかもしれません。
だから台紙二重化を、すべてのブリスター包装の答えにするつもりはないんです。 ただ、ブリスター包装を残す必要がある商品のための、一つの選択肢としてご紹介しています。
2030年までに、何をしておくか

「2030年を考えると、あまり時間がないかも…。」
あるメーカーの担当者と話をしていたとき、そんな言葉がありました。
カレンダー上ではまだ、猶予期間は数年あります。 でも、実際に包装を変更するとなれば、
素材を選ぶ、試作品を作る、包装テストをする、輸送試験をする、商品への影響を確認する、海外の販売先と調整する、包装設備を改造する、場合によっては新しい設備を導入する、量産条件を決める
――こうした工程が待っています。 必要な作業を項目で並べてみると、残された期間は、決して長くないことが分かります。 今から必要なのは来るべき日に向けて、「選べる状態にしておくこと」だとボクは思っています。
大まかなマイルストーンは、
2026年 整理と確認。
今使っている容器は何の樹脂なのか。 台紙には何が塗られているのか。 使用後に紙とプラスチックを分けられるのか。 なぜその包装形態が必要なのか。 今のプラスチック量(厚み)は本当に必要なのか。 素材を変更すると、今の設備で包装できるのか。 … こうしたことを、一度、棚卸して整理する時間をとる。
2027年 手段を探る。
代替素材や代替構造を試してみる時期として、いろいろな可能性を探る。
2028年 候補を絞る。
欧州のDesign for Recyclingの具体的な基準や、日本国内の制度・市場動向を見ながら候補を絞っていく。
2029年 実施に向けた検証。
実際の製品と設備で、量産テストを行う。
2030年 万全な体制へ。
PPWRが本格的機能する頃には、すでに選べる状態になっている… 理想の状態。
これくらいの時間軸で考えても、決して早すぎるとは思いません。 土壇場でバタバタするよりも、ゆとりを持って臨む方が、対策としてはスムーズです。
もちろんこれは、包装変更に必要な時間から逆算した、一つの実務的な目安です。 商品や業界によっては、もっと早く動く必要があると思いますし、逆に対象外となる包装や例外規定が適用されるものもあります。
重要なのは、「2030年だから1年前くらいからでいいや」と呑気に構えないことです。
まとめ|今すぐ全部を決める必要はない
PPWRそのものは、欧州の規則です。
ただ、減量化、包装の簡素化、単一素材化、分別のしやすさ、再生材の利用、リサイクルしやすい設計…。 こうしたことがらは、日本でもすでに始まっています。
日本政府のプラスチック資源循環戦略でも、2030年までにプラスチック製容器包装の6割をリユースまたはリサイクルすることなどが目標として掲げられています。
2026年の今、「EU向け商品だけ考えておけばいい」というより、これから新しく作る包装を、従来とまったく同じ考え方で作り続けていいのか。そこを考える時期に来ているように思います。
規制がどう変わるか。材料事情がどう変わるか。再生材がどこまで普及するか。日本の制度がどこまで欧州に近づくのか? まだまだ分からないことはたくさんあります。 だからこそ、将来的な流れを見ながら、自社としてどうしていくかを考えていくことが大事なんですよね。
台紙の二重化も、そのために考えている一つの方法です。
紙とプラスチックを分けやすく、使うプラスチックも選びやすくする。 これは、PPWRへの対応だけに限ったことではありません。 社会環境や利用者への配慮はもちろん、包装の作業現場で対応してくれているスタッフのことも考える必要があると思っています。
どれだけ優秀な包装が開発されたとしても、現場にかかる作業負荷が大きくなるなら、残念だとボクは思うんです。 作業への負荷は、一種の環境への負荷とも言えるからです。
2030年に何が正解になっているのか、それを今、完全に予測することはできません。 でも、動向を見ながら、対策や対応を考えていくことはできます。
もし、今お使いのブリスター包装について、「このままでいいのか」「他にどんな選択肢があるのか」と感じている部分があれば、まずは今の包装の状態を聞かせてください。
台紙の二重化に限らず、商品やご事情に合わせて、一緒に選択肢を整理するところから始められます。
もう少し詳しく知りたい方へ
今回のPPWRシリーズは、もともと投稿記事で、3回に分けてお伝えしていた内容です。
それぞれの回では、ここでは書ききれなかった細かい背景や、実際にあった相談の話も含めて書いています。 気になる回があれば、あわせてご覧ください。
シリーズ1:PPWRはもう始まっている。2030年まで、残された時間は意外と短い
PPWRの発効・適用の経緯と、2030年に向けたDesign for Recyclingの評価等級について詳しく解説しています。
▶ 詳しくみる
シリーズ2:減プラだけでは決められない。PPWR時代の包装に「防犯」という視点
日本と海外での防犯性能に対する考え方の違いや、シュリンク台紙の弱点について掘り下げています。
▶ 詳しくみる
シリーズ3(最終回):欧州へ輸出しないから関係ない? PPWRから考える、これからの日本の包装
日本国内の制度との共通点や、2030年までのマイルストーンの考え方を詳しく紹介しています。
▶ 詳しくみる
ここまで読んでくれてありがとうございます。
まだ何も決まっていない段階でも、相談できます。
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